Self Bondage 第2章
part1
雪の日の朝には、独特な音がある、と菜穂子は思う。静寂、という、音。菜穂子はまだ
まどろみの中に漂っている。
−向こうも雪かしら。いいだろうなぁ、露天風呂から見える雪景色って。うんとお土産、
フンパツしてもらわなくっちゃ−
菜穂子は2泊3日の温泉旅行を両親にプレゼントし、その代わりに秘密の悦びを手に入
れた。今日は土曜日、菜穂子が最も好きな曜日だ。夕べの余韻か、乳首がじんじんと疼く
。思わず指がそこに伸びそうになるのを、思いとどまる。
−今からパンツ一枚だけ、洗いたくはないわ−
菜穂子の唾液と×液(菜穂子の自主規制)に汚れた下着は、既に洗って室内に干してあ
る。母にはそれを見られたくなかった。
意を決してベッドから出ることにする。ぬくもりに包まれていると、心と体がまたざわ
めいてきそうだった。枕もとの包丁に眼を遣ると、夕べの悲愴な決意がおかしくなった。
でもきっと、今夜もこれを置くことになるわ、と菜穂子は思った。
首筋、首の後ろ、脇から背中、乳房の下辺と鏡で入念にチェックする。大丈夫だ、跡は
残っていない。
軽い朝食を摂り、午前中はのんびりと過ごす。午後からは友人と図書館で勉強する約束
をしている。
−夜まではあのことは忘れよう。来年は受験生だ。そのことで頭をいっぱいにしてはいけ
ない。ちゃんとけじめをつけなくっちゃ−
午後には雪は止んだ。積もるほどの雪ではなかった。ちょっと、つまんない。それでも
肌を切る風の冷たさが心地よい。菜穂子は冬が好きだ。凛とした厳しさが好きだ。そして
冬は春の暖かさを内包している。この寒さに耐えてこそ、春のありがたみが増すというも
のだ。新緑にけぶる木々の梢の美しさは、なにものにも代えがたい。暖かさを内に秘めた
厳しさが父を思わせる。だから菜穂子は、冬が好きだ。
−私って、ファザコンかもね−
夕食の仕度を終えた頃、母から電話があった。父とふたりで雪見酒を楽しんでいるとい
う。酔いが回ってきているのか、普段よりも上機嫌だ。菜穂子までなんだか嬉しくなる。
ふたりをだしに使ったようで気がひけていたが、楽しんでもらえてよかったと思う。
後片付けを済ませて部屋に戻る時、キッチンから透明なグラスを2つと、父の書斎から
ライターを持ってくる。
−準備はこれでよかったかしら−
お風呂の準備ができるまでに、家中の戸締りを確認し、携帯電話の電源を切り、電話を
留守番電話モードに切り替える。再度念入りに施錠を確認し、気がつけばやはり包丁を枕
もとに置いていた。
−でも、今日の私は昨日より大胆−
電子音がお風呂の用意が整ったことを報せると、菜穂子はベッド下の収納スペースから
秘密の宝箱をとりだす。乳房をパンパンに搾り出すためのラバー製ブラジャーを素肌の上
から身につけると、バスローブだけを羽織って部屋をでる。
部屋から浴室までがこんなに遠いとは思わなかった。暗闇の中、手探りで浴室まで進む
。暗がりに誰かが潜んでいるような、誰かに覗かれているような疑惑に駆られる。やっと
の思いで浴室に駆け込むと、窓の施錠を確認してしまった。
バスローブを身に纏ったまま、姿身の前に立ち、胸を反らす。乳房が異常に大きく膨れ
上がり、尖りきった乳首がその存在を主張している。バスローブを脱ぎ、ブラジャーを着
けたまま体を洗うことにする。
シャンプーの泡をシャワーで洗い流す。そのままシャワーの水流を最大にして乳首に当
てる。
−うあぁぁぁっ、気持ちがいい−
今度はボディソープをたっぷりと泡立てて、両の掌で体を洗う。熱を孕んでじんじんと
疼く乳首に泡まみれの指が触れると、気が遠くなりそうな快感が菜穂子を襲った。菜穂子
は夢中になって掌全体を使って乳房をこねまわし、そっと掌で乳首をつつき、親指と中指
で乳首を摘まみ、人差し指の先で乳首の頂点を爪弾いた。
−あぁんっ!ぬるぬるの感触がたまらない!−
菜穂子は泡だらけの姿のまま、鏡の前に立った。そのまま体を鏡に近づけていく。充血
した乳首の虚像と実像も近づいていく。4つの頂点が鏡の表面上で顔を合わせる。菜穂子
は乳首を鏡に擦りつけ、さらに強く鏡に乳首を押し付ける。尖りきった乳首が反発をする
。
しばらく楽しんだ後、シャワーで全身の泡を洗い流す。すると、皮膚の表面の皮脂が洗
い流され、指と肌の間の摩擦が急激に増す。浴槽に半身浸かる。目の前に搾り出された巨
大な乳房がある。菜穂子はそっと乳房を握りしめると、指の先で乳首に触れる。
−ううぅっ、すごいっ、どうにかなっちゃう−
研ぎ澄まされた刺激が乳首を襲う。泡とはその刺激の質が違う。目の前が真っ赤になり
、頭の中が真っ白になる。
声が出そうになる、それもあられもないほどの大きな声が。菜穂子は必死に歯を食いし
ばる、しかし、こらえられない。思わずタオルを絞って口に噛ませる。それでも声を挙げ
つづけずにはいられない。
菜穂子は我を忘れて自らの乳房を愛撫する。意識は既にどこかに飛んでいる。
呼吸ができなくなって、我に返った。いつのまにか浴槽の中で体が滑って、鼻までお湯
に浸かっていたのだ。
−やだっ、こんな格好のまま死んだりしたら、私、死ぬにも死にきれないわよ−
part2
校庭の隅の霜柱が、菜穂子の靴の下でさくさくと音をたてて崩れる。
−霜柱を踏むのなんて、何年ぶりかしら−
空気が澄んでいて、空がとても高い。遠く秩父山系に冠雪しているのがわかる。今日は
富士山も見えるかもしれない。こんなに天気がいいのに、月曜日は雨というイメージがあ
る。心がブルーになるからだろうか。
夕べは温泉土産をひろげながら、お父さんお母さんと夜遅くまで盛り上がった。喜んで
貰えて嬉しい、でも、眠たい。こんな日に限って、一時限目から体育だ。
男子は外でマラソンだそうだ。お気の毒さま。女子は体育館でバスケットボールだ。
更衣室には空調設備がない。女の子達はきゃあきゃあ騒ぎながら着替えを始める。寒さ
に皆一様に鳥肌が立っている。乳首もきゅうっとなって、固くなる。体温を逃がさないよ
うに皮膚が収縮する生理現象にすぎないが、体操服の上からでもはっきりそれとわかるの
は、やはり恥ずかしい。皆胸を抱きかかえるようにして、体育館に向けて走っていく。
バスケットボールで体は内側から暖まった。教室も空調が効いてきて、ぽかぽかと暖か
い。三時限目が終わる頃には、菜穂子は夢と現(うつつ)の間をさまよっていた。一昨日
の夜のことが菜穂子の脳裏に蘇る。
お風呂で窒息しそうになったあと、菜穂子はラバー製のブラジャーを一度はずし、浴室
をあとにした。火照った体に夜気が心地よかったが、風邪をひいては元も子もない。部屋
が暖まるまで図書館から借りてきた本を読むことにした。逸(はや)る心を落ち着かせた
いという思いもあった。
小一時間経って、菜穂子は再び裸になって姿身の前に立ち、ラバー製のブラジャーを身
につけた。
それは、テレビのエステサロンを紹介する番組を観ていたときに思いついた。
菜穂子はベッドに横たわり、肩と腰を支点に大きく胸を反らす。張り詰めた乳肌に静脈
が蒼く浮かび上がる。尖りきった乳首が切なく疼く。用意しておいたコップとライターを
取り出すと、コップを伏せた形に持ち、下からライターの火で炙る。そして乳房にコップ
を押し当てる。
おそらく原理はこういうことなのだろう。火で炙られることによりコップ内の空気は膨
張する。それは空気の分子間の距離が広がる、ということだ。空気の多くはコップの外に
溢れ出す。コップ内の空気の分子数は通常の半分以下、真空に近い状態になる。そこを乳
房の肉でふたをする。やがて暖められた空気が冷えると、空気の分子間の距離が再び縮ま
る。するとどうなるか。
−ううぅ、おっぱいが吸い込まれる−
張り詰めきった乳房の肉が、さらにコップの中に吸引されていく。尖りきった乳首が、
さらに充血していく。
−お乳を吸われるのって、こんな気持ちなのかしら?−
菜穂子は牛乳ビンの中に火のついたマッチを入れ、ゆで卵でふたをする、という実験を
思い出していた。マッチの火が消えると、ゆで卵はみるみる牛乳ビンの中に吸い込まれて
いく。
−わたしのお乳は、あの時のゆで卵と同じなのね−
痛いほどに乳房がコップに吸われていく。乳腺から粘液が分泌され、乳首の頂点がねっ
とりとした艶を帯びてくる。
−えっ、お乳がでちゃったの?−
「菜穂子ったらぁ、聞いてるのぉ」誰かが呼ぶ声で、菜穂子の思考は現実に引き戻された
。
「あっ、ごめん、なんだっけ」前の席の初音だ。
「だからぁ、あたしの友達の友達で、渋谷でウリをしている子がいるんだけどぉ」
−友達の友達って、誰よ、いったい−
「その子がどうしたの?」
「渋谷でオヤジと待ち合わせて、ホテルに入ったんだってぇ。そしたらそのオヤジ、ぽん
と10万円、ベッドに並べたんだってぇ」
「え〜、それってかなり多いんじゃない?」
「そう、あたし、びっくりしちゃってぇ」
「えっ、あんたが?」
「あっ、じゃ、なくてぇ、その子がびっくりしちゃってぇ」
−どうでもいいけど、その語尾を伸ばす喋り方、なんとかなんない−
「お願いだから、君を縛らせてくれないか、って、言ったんだってぇ」心臓が止まるかと
思った。動揺が顔に出ないように、と祈りながら。
「で、あんた、なんて言ったのよ」
「冗談じゃないわよ、お断りって、必死で逃げてきたわよぉ。変態だなんて思わないじゃ
ない。殺されるって思ってぇ」
−やっぱり、友達の友達ってあんたじゃない−
「新しい世界が開けたかもしれないのに」声が震えていないか、心配だった。
「やめてよぉ。女、縛ったりいじめたりして、なにがうれしいんだろぉ、信じらんない」
それでは、縛られたい、いじめられたいと思っているわたしは、いったい、なんなのだ
ろう。
part3
よく晴れているから、陽溜まりならば暖かいかもしれないと思った自分が甘かった。昼
休みの屋上には菜穂子と初音以外誰もいない。もっともそれを狙ったのではあるが。
「うわぁ、寒いねぇ」初音が手に息を吹きかけながら、叫ぶ。
「この学校でここだけなんだよ。富士山がみえるの」菜穂子が遠く西を指差す。
「ほんとだぁ。へ〜、知らなかったよ。
で、なぁに、菜穂子。話って」菜穂子はややためらった後、話をきりだす。
「さっきのあんたの話なんだけど」
「あたしがウリをしていた話?」直截な表現に菜穂子はためらった。「ええ」
「軽蔑する?」下を向いたまま、初音は泣きそうな声で呟いた。
「別に軽蔑なんかしないよ。初音の自由だと思う。ただ、興味があったから……」
「興味って……。ダメだよ!菜穂子!菜穂子はウリなんて絶対にしちゃダメだ!」
「しないよ。そんな気は全然ないけど、なにムキになってんのよ」
「菜穂子はあたしの憧れなんだよ。可愛くてスタイルがよくて、頭もよくって。あたし、
すっかり汚れちゃってるけど、菜穂子はずっとキレイじゃなきゃダメなんだ」初音は潤ん
だ瞳を菜穂子に向けた。
「そんな、わたしそんなコじゃないよ。ホントのわたしを知ったら、初音、きっとわたし
を軽蔑する」
「ううん、あたしなんか、サイッテイ!カレシがいるのにウリなんかして、ばれないかっ
ていつもびくびくしてて」
「ねぇ、初音。もし、もしよ。カレシが初音のことを縛りたいっていったら、初音、どう
する?」
「えっ、やっぱイヤだよ。カレ、そんな変態じゃないもん」
「でもね、初音のことが本当に可愛くって、いじめたり暴力をふるったりするんじゃなく
て、ただ縛りたいだけだっていったら?」
「そんなの、やっぱヘンだし、イヤだけど、どうしてもって言われたら、わかんない、っ
て、菜穂子!あんた、まさか?」
「そう、そのまさかなの。もちろん、縛られたことなんかないし、自慢じゃないけど処女
だよ。でも、子どもの頃からずっと、縛られてみたいって思ってた。やっぱわたしって、
ヘンなのかな?こんなの、変態だよね」
「よくわかんないけど、でもそれってすごく危険じゃない?」
「わかってるのよ。だから、本当にわたしを愛してくれる人にしか打ち明けられないとお
もっていた。こんなこと話すの、初音が初めてだよ。だから、絶対に誰にも話したらイヤ
だよ。もし他の人に知られたら、わたし絶対にあんたを許さないから」
「誰にも言わないよ。約束する」
「でね、わたしは知りたいの。こんなこと思っているのはわたしだけなのかって。わたし
だけが変態なのかって。だから初音、あんたを縛らせてくれない?」
「どう、初音。初めて縛られた気分は?」
「うぅ〜」初音は制服のまま、例のラバーロープで後手胸縄、足首膝の上下まで縛られ、
口にはハンカチを詰められ、その上からスカーフを被せる形で猿轡まで噛まされて菜穂子
のベッドに横たわっていた。菜穂子はカーペットの上にやはり制服のまま正座し、両手を
きちんと揃えられた膝に握りしめて初音の緊縛姿を凝視(みつ)めていた。
「こんなふうに縛られちゃったら、もう初音は逃げることも抵抗することもできないの。
わたしがいやらしいことしてもね」菜穂子は身をのりだした。
「むぅ〜」初音の瞳におびえの色がひろがる。
「たとえば、こんなの、どう?初音はカレシと対立する暴走族のグループに捕まっちゃっ
たの。初音のまわりを5〜6人の男の子が取り囲んでるの。初音は縛られたまま、逃げよ
うとするけれど、もうどうすることもできない。男の子は騒いでいるわ。可愛い子じゃな
いか。どうするんだよ。カレシはまだ来ないのかよ。いたずらしちゃうぞって。一人の男
の子が手を伸ばしてきて、初音の足に触るの」菜穂子は揃えられた初音の膝小僧に手を伸
ばした。
「んん〜!」ぴくりと初音の体がはねる。
「初音は必死になって助けを呼ぶの。助けて!早く助けにきてって。だけど声を出すこと
ができないの。初音の体にさらに男の子達の手が伸びてくるわ。スカートをめくりあげら
れて下着も見えちゃうけど、初音にはそれを隠すこともできない。どんなに身をくねらせ
てもがいても、手を振りほどくことも下着を隠すこともできない」菜穂子はベッドの上に
体をのせると、初音のつややかな脂の乗った太腿を撫でながら、耳元でささやく。菜穂子
の手の中で若い筋肉が躍る。
「カレシにしか触らせたことのない体を、いろんな男の手が撫でまわすわ。初音は、でも
カレがきっと助けに来てくれると信じて、じっと耐えているの。その時、扉が開き、縛ら
れたカレが、初音は関係ないんだ!はなしてやってくれ!と叫びながら初音の前に連れて
こられるの」初音の頬を光るものが伝う。
「愛する二人のご対面だ、ラブシーンをみせてくれよ、と男が言うの。でも二人とも縛ら
れて、抱き合うこともできないの。心はこんなに求め合っているのに。いつもどんな風に
しているのか、教えてくれよ。そのとおりにやってあげるからさ。男達がそういいながら
、ブラウスのボタンを一つづつはずしていくの」菜穂子は初音のブラウスのボタンをはず
していく。初音は必死に抗うが、どうすることもできない。
「いやぁ、見ないで!初音がどんなに叫んでも声は届かない。抵抗することもできない。
カレのやめてくれ!!という叫びだけが虚しく響く」
「どうだった?縛られた感想は」自由になった初音は、しばらく呆然とベッドに横たわっ
たままだった。
「う……ん。すごい刺激的だった。スリルでどきどきしちゃったよ。
あたしは菜穂子みたいに上手に喋れないし、あんな話考えることもできないし、直接ヤッ
チャウ方が好きだから、あんなイメージプレイは苦手だけどさ。でも縛られて菜穂子の話
をイメージしただけで、もうぐっしょりだよ。カレとのSEXに飽きてきたら、これ、や
ってもいいね」
「でしょ?わたしだけが特別じゃないよね。安全だって保証されれば、楽しめるでしょ」
「安全だって保証されるかどうかが、問題だけどね。
ねえ、菜穂子。菜穂子は縛られるとどうなっちゃうか、見てみたいわ。今度はあたしが
菜穂子を縛る番よね」
菜穂子は初音のその言葉を待っていた。このまま我慢することなど、できそうになかっ
た。
part4
おくれ毛が汗で頬にはりつく。菜穂子はすっかり汗ばんでいることに気づいた。熱い。
思わずグレーのブレザーとベストを脱ぎ、リボンをはずした。体が内側から火照っている
のだ。
「おうちの人は大丈夫なの?」初音が訊ねた。
「今日は大丈夫。お母さんは同窓会で遅くなるし、お父さんは七時過ぎにしか帰ってこな
いから。でも外に声が漏れるとまずいから、口はしっかりとふさいでね」
「そんな大きな声をだすの?菜穂子」
「いじわる」菜穂子は頬を染める。「あれっ、そういえば初音、あんた喋り方かえたの?
」
「これが普通なの。だからぁ、こんな喋り方したらぁ、バカな男の子が可愛いとおもって
くれるかな、と思ったんだけど。男の前でだけ態度や喋り方かえると、女の子にすっごい
嫌われるじゃない。だからね。でも菜穂子にはあたしの秘密も知られちゃったし、菜穂子
のすっごい秘密も知っちゃったし、素のままでいこうかなって」
「初音、あんたその方が絶対いいよ。みんなやカレの前でもそれでいった方がいいよ」
「そうかな?」「うん、絶対!」「わかった、菜穂子がそう云うんなら」
「いい、菜穂子?じゃあ、縛るからね」
「うん、うんときつく縛ってね。緩いのはキライだからね。でも、痛いのはいやだよ」
「わがままだなあ」菜穂子はベッドの端に腰をおろし、胸を反らして両手を背中で交差さ
せる。たとえ相手が同性であっても、初めて他人に縛られるのだ。心臓が爆発しそうだ。
交差させた手首にロープが巻きつけられていくと、せつなさがこみあげてくる。
「あまり上手じゃないと思うけどね」ラバー製のロープが乳房の上下を締め上げてくる。
菜穂子は瞼を閉じ、眉根を寄せる。「あぁ……」知らず吐息が漏れる。
他人の手で縛られるというのは、こういうことなのか。抵抗することもできない、逃げ
ることもできない。初音がわたしになにをしても、されるがままなのだ。いま、わたしは
捕われのお姫様。悪人に捕まって、助けが来るのを待っている。でも、王子様は現れない
。わたしはそのことを知っている、それを望んでいる。さっきわたしが初音に囁いたこと
、それは私自身の夢物語。
「菜穂子、ステキ。おっぱいがこんなに大きくなったよ」初音が感嘆の声をあげる。
「はつ……ね。胸を…もっと、強く……、縛って……。はぁ……、ぁっ……、胸を縛られ
るの……、すき」菜穂子は悩ましく身をくねらせる。
「菜穂子ってば、なんにも知らないような顔して、エッチなコだったんだね。こんなもの
まで用意して。いつもこれで自分のおっぱい縛って、オナニーしてんの?」
「ちが……う。いじ……わる。おねがい、お口も……ふさいで。はず……か……しい」
「さっきさんざん意地悪されたんだもん。しかえしよ」初音は菜穂子の口にハンカチを押
し込むと、スカーフできっちりと覆った。初音はさきほどまで初音の脚を縛めていたもう
一本のラバーロープをとりだし、さあ、どうしようかと思案にくれた。
「菜穂子、おっぱい締め上げられるの、好きなんだ」菜穂子はこくんと頷く。
初音は菜穂子の背中を通っている一本目のロープに二本目のロープをしっかり結びつけ
ると、首から乳房の下辺を通る縄に縦におろし、引き絞った。もういちど背中で縄を留め
ると、左の肩口から右の脇にたすきにロープを掛け、さらに背中から今度は右の肩口から
左の脇にロープを渡した。
気がつけば、菜穂子も初音も全身汗でずぶ濡れになっていた。菜穂子の乳房はラバーロ
ープによって縦横に搾り出され、行き場を失った乳房の肉はゴムマリのようにブラウスを
突き上げていた。
「菜穂子、おっぱいすごいよ。あたし、菜穂子のおっぱい、すっごく好きだけど。菜穂子
、すっごいきれい」
あいかわらずボキャブラリーが貧困だなぁ、初音、と心のどこかで思いながら、乳首か
ら湧き出す、疼くような感覚に菜穂子は酔っていた。
「菜穂子、おっぱい、さわるよ」初音の手が、指がおそるおそる菜穂子の張り詰めた乳房
に伸びる。初音の指がやさしくブラウスとブラジャーごしに乳肌に触れる。それは触ると
いうより、刷くといった方が近い。
「菜穂子、乳首がつんつんに勃ってるよ。それにおっぱいが、こんなに固い」初音の指が
菜穂子の乳首をさわさわとこする。うぁぁぁっ、直接神経に触れられているような、強烈
な感覚が菜穂子を襲う。塞がれた喉の奥から、.くぐもった喘ぎ声が漏れる。固く閉じた
瞼から幾筋も涙が頬を伝う。
自分で涙を拭うこともできない、胸を覆い隠すことも、もっと触って欲しいとせがむこ
とも、いやだ、と拒否することも、愛しい人を抱きしめることも、すべて封じられ、その
くせ全身の感受性だけが極限まで高められている。その思いが菜穂子をさらに高ぶらせる
。そうだ。わたしはこの感覚が好きなのだ。
初音の指がブラウスのボタンにかかる。ひとつ、ふたつ。充血した乳首が顔をだす。乳
腺から乳汁が噴き出しそうなほど張り詰めている。初音の指がその先端にそっと触れる。
頭が痺れる。首筋、鎖骨、そして乳肌が汗でびっしょりだ。
初音が背後から菜穂子を抱きしめる。溶けてしまいそうに柔らかく、灼けるように熱い
弾力に満ちた初音の体が、菜穂子の背中に密着する。大切な宝物を愛でるように、女の急
所を知り尽くした指が菜穂子の乳房を愛撫する。初音の指が菜穂子の乳首を楽器にトレモ
ロを奏でる。敏感な突起に指が触れるたびに、乳首がコンコンと音をたてているような錯
覚に捕われる。それほどまでに固く尖りきっているのだ。ビブラートのかかった喘ぎ声が
菜穂子の喉から絞りだされる。自分で自分を制御することができない。
自分ではない自分がいる。自分のなかに眠っている怪物が眼を醒ましていく。こんなわ
たしは、わたしじゃない。自身の体液が下着をぐっしょり濡らしていることがわかる。大
きく脚をひろげ、あられもない姿をさらしてしまいそうで、満身の力を込めて膝をそろえ
る。脚も縛ってほしい。菜穂子は心から願う。
しかし、もう一本ロープはあるのだが、それをだそうとすると、あの宝箱を開けなくて
はならない。菜穂子は初音にはあのブラジャーを見られたくなかった。菜穂子の女として
の恥じらいがそれをためらわせた。
菜穂子はふと不安に駆られた。わたしは誰に縛られてもこんな風になってしまうのだろ
うか?違う。菜穂子は即座に否定した。わたしはそんな女じゃない。初音とは、秘密を共
有したことによって、心許せる存在になったからだ。絶対に、違う。でも、もし縛られる
だけで、体が心を裏切ってしまう。そんな呪わしい、忌まわしい体だったら……。
マゾは苦痛を快感と感じるっていうけれど、だったらわたしはマゾじゃない。苦痛を与
えることが快感だ、という人がサドならば、わたしはサディストは嫌いだ。
「菜穂子、きれい、きれいだよ」うわごとのようにつぶやきながら、初音は憑かれたよう
に乳首に舌を這わせ続けている。菜穂子ももうなにも考えられなくなっている。快楽の波
が菜穂子を飲み込もうとしていた。
しばらく二人は起き上がることもできないでいた。やがて菜穂子が口を開く。
「初音」
「なに」
「もう、ウリはやめなよ」
「うん、やめる。遊ぶお金が欲しかったんだけどね。好きでもない男に抱かれても楽しく
も何ともない。金で買われて、ゴミ箱のように扱われると、どんどん心がすさんでいく」
「カレとのSEXとは全然違う?」
「全然違うよ。菜穂子、つまんない男にひっかかるなよ。菜穂子はあたしの宝物なんだか
ら。なんかすごい素質もってるから、危なっかしくてしょうがないよ。ヘンな虫がつかな
いように、あたしがしっかり見張っているからね」
そう、そうよね。やっぱり愛情がいちばん大切よね。
-END-