絶対可憐チルドレン外伝 サイコメトラー危機一髪
part5
足を一歩踏み入れて、すぐに飛び退いてしまった。
「どうしたの?紫穂ちゃん」
ナメクジが背筋を這い回るような声だ。紫穂ちゃんなんて呼んでほしくない。キッとイ
ンクブスを睨みつけた。
「愚かな男ね。こんなものを見せて、私をどうにかできるとでも思っているの?」
「僕は何もしていないよ。ここはいつもこんな状態なんだ。いつでもすぐに楽しめるよう
にね。縄たちの記憶を透視(よ)んじゃったのは、君の能力さ。見たくなければ、見なけ
ればいい」
本来私の能力は、手のひらを通して人やものの記憶や情報を透視するものだ。だけど今
は超度(レベル)7のパワーを開放している。しかもこの縄にはインクブスの念が込めら
れているのだ。縄に触れたところから、その記憶が洪水のように私の中に流れ込んでくる
。
このままパワーを放出していれば、縄の記憶に私の心が縛られてしまう。パワーを抑え
れば、ヤツの催眠能力(ヒュプノ)に私の心がからめ捕られてしまうだろう。
「ダブルバインドね」
ダブルバインド−二律背反−二重の縛め。
「そう、ダブルバインド、僕らしいだろう?」
インクブスの舐めまわすような視線が、私の胸にからみつく。かぁっと、頭に血が上る
。乳首が勃ってしまったことが、そしてそれをヤツに悟られてしまったことが、死ぬほど
悔しい。穢された気分だ。落ち着くのよ、紫穂。ヤツのペースに乗せられては、ダメ。冷
静になるのよ。
「こんなもの、私は子供の頃から見慣れているのよ。AVを見せれば女はその気になると
でも?あまりナメないでよ」
縄を足で掻き分けながら進む。こんどは腰から脚にかけてヤツの蛇のような視線がから
みつく。ひどい屈辱だ。
ヒュプノによって増幅された縄の記憶が、私を押しつぶそうとする。何十人、何百人と
いう女の子たちのよがり声、股間に食い込む縄にじわじわと広がっていく黒い汚点(しみ
)。汗や体液を吸って黒くなった縄。絞り出された乳房を揺すり、勃起した乳首への愛撫
を懇願する女の子たち。足が前に進まない。膝から力が抜けてゆく。膝をついたら負けだ
。私は胸をそらし、インクブスの眼を睨みつける。
「これは、ニセの記憶ね」
インクブスとの距離は6メートルほど、ヤツの表情がはっきりとわかる。
「なぜ、そう思うんだい?」
「なんでのんびり私が行くのを待っているのよ。私をどうにかしたいのなら、とっととこ
こにきて縛ればいいじゃない。あんたがやってきたようにね」
そのとき、通信機から大きな声が飛び込んできた。
〈紫穂!!大丈夫か!!〉
〈こっちはカタ、ついたで!すぐ行くから待っとき!!〉
「葵ちゃん!薫ちゃん!!」
〈なぜだ!発信機に反応がない!〉
皆本さんの狼狽する声に続いて、どういうことだよ、どないすんねん、と皆の混乱した
声が聞こえてくる。
「落ち着いて、皆本さん。最初に言ったじゃない、【歪んだ脳髄】は外から攻撃ができな
いって。私たちの感覚の方が狂わされているのよ。奈津子さんやほたるさんの能力でも【
歪んだ脳髄】を捉えることはできないわ」
〈なんてことだ。それに思いいたらなかったのは、僕の落ち度だ。だが、紫穂。なぜ黙っ
ていた。君にはわかっていたんだろう?〉
皆本さんの声が怒気を含んでいる。
「心配かけたくなかったし、チャンスを逃したくなかったのよ。……ゴメンナサイ」
〈アリアドネの糸は使えなかったのか?〉
「このラビリンスでは、ミノタウロスの力が強すぎるのよ。断ち切られちゃうわ」
皆本さんは深いため息をついた。
〈で、どうなんだ?そして、どうするんだ?〉
「インクブスの超度(レベル)が下がれば、【歪んだ脳髄】は姿を現すわ。それまで近く
で待っていて」
〈紫穂!負けちゃヤだよ!そんなヤツにヤられないで!〉
「罠にはまって、紫穂ちゃん大ピーンチなんだけどね。それでわかったこともあるから、
もっと深くはまってやろうと思うの」
〈危険だぞ〉
「ダブルバインド、両刃の剣だけどね。ヤツの目の前にメドゥーサの首を突きつけてやる
わ」
〈さっきから、よくわかんない単語がでてくるんだけど〉
〈あんなぁ……、ギリシャ神話でな……、あぁっ!めんどくさい!後でゆっくり説明した
るわ!〉
〈え〜、めんどくさいんなら、べつにいいよ〜〉
〈とにかく、無傷で帰って来い!大丈夫、君たち【ザ・チルドレン】は無敵だ〉
〈紫穂、一人やないからな。ウチらがついとる〉
「うん、葵ちゃん、薫ちゃん、皆本さん、私を護ってね」
皆本さんの言葉を心の中で反芻する。皆本さんのバカ、鈍感、なんでそんなに優しいの
よ。やだ、目の前がぼうっとかすんでくる。頭の中に白い靄がかかっているみたい。
いつの間にか、インクブスも、縛られた女の子たちも、私の視界からいなくなっていた
。靄の中に一人っきり。いや、誰かがいる。あれは、……皆本さん!!もう一人は……。
『いや、皆本はん、ウチ恥ずかしい。紫穂や薫と違ごうて、胸、小っさいし』
『大きければいいってもんじゃないよ』
皆本さんが背後から葵ちゃんの胸に手を回している。白いノースリーブのブラウスに濃
紺のミニのフレアスカート、同系色のニーソックスとスカートの間から真っ白な太ももが
覗いている。
『葵の胸は、けっして小さくないよ。スレンダーでスタイルがいいから、このくらいがち
ょうどいい。それに、とっても敏感だ』
『やっ!!皆本はん……』
皆本さんの指が胸の先に触れるたびに、あっ、あっ、と喉の奥からくぐもった声が洩れ
、びくん、びくん、と体が跳ねる。やがて葵ちゃんは腰をくねらせ、じれったそうに太も
もをこすりあわせる。
心臓が喉から飛び出しそうだ。いったい、何が起こっているの?足が震え、身体が動か
ない。
「うそ、皆本さん、葵ちゃん、あなたたちいつの間に……」
耳元がなんか、騒がしい。紫穂、なにゆうてんねん、とか、幻だ、だまされるな、とか
、なにを言っているのか全然わかんない。目の前のことで頭がいっぱいだから。
皆本さんはブラウス越しにブラのホックをはずすと、一気にノースリーブの袖から抜き
去り、縄を取り出して葵ちゃんの腕を背中にねじ上げた。腰のあたりで交差させると、手
首に縄をかける。一度固定した縄を前に回し、乳房の上下を挟み込むように絞り出すと、
腋と腕の間に縄を通して締め上げる。さらに縄を追加して、肩から乳房の下辺を締めてい
る縄にからめ、ぐいっと引き絞る。
「いや、皆本さん、どうして葵ちゃんを縛るの?」
葵ちゃんは、耳と乳首が弱い。耳たぶに息を吹きかけられるだけで、腰が抜けて膝から
崩れる。眉根を寄せて、くねくねと身を揉み、甘い喘ぎを洩らしている。縄に縦横に絞ら
れて、乳房は前に大きく突き出し、ブラウスにくっきりと浮かびあがった乳首のシルエッ
トがひどくエロティックだ。
「葵ちゃん、すごくいやらしい」
また耳元が騒がしくなった。ウチ、清純派やのに〜とか。大事なことのようなんだけど
、思考がまとまらない。耳を通過していくだけで、頭の中に収まらない。
耳たぶに息を吹きかけられて、葵ちゃんが崩れる。
『はあああぁん、ダメ!耳は、耳は、あかん!!』
支えていなければ、倒れてしまうだろう。皆本さんは後ろから葵ちゃんを抱きかかえて
、十本の指をお乳に食い込ませる。
首を振った拍子に眼鏡が落ちそうになる。皆本さんは眼鏡を直して、ブラウスのボタン
に指をかけた。
四番目のボタンまで一気にはずすと、左右に割広げた。縄にくびりだされ、大きく張り
詰めたおっぱいは、静脈を蒼く浮かべて光っている。
『葵、すてきだ。おっぱい、こんなに大きくなっているよ』
『あぁっ。皆本はん……』
胸を揉みしだいている指の動きが変わった。お乳を握りしめたまま、親指と人差し指で
両の乳首をぴんぴん、と弾く。
『はぁっ!あっ!あっ!あっ!ダメ!ウチ、ウチ、変になっちゃう!』
『変になっちゃうって、どうなっちゃうんだい?』
皆本さんは勃起しきった乳首を親指と中指ではさんで摘み、左右にくりくりとひねりな
がら、人差し指で先端をかりかりと引っ掻く。葵ちゃんは腰まで伸びた黒髪を揺らし、絶
え入るばかりにかぶりを振る。びくんびくん身体が跳ねるので、皆本さんが身体を支えて
いなければ、そのまま後ろに倒れてしまう。いわゆる縄に酔っている状態だ。
あんなことされたら、私、どうなっちゃうんだろう。そう思うと、身体の奥深いところ
がどろりと熱くなる。でも、何でそれが私じゃなくて、葵ちゃんなのよ。
「葵ちゃんだけ、ずるい!皆本さんも、どうして葵ちゃんの感じるポイント知ってるのよ
!私しか知らない筈なのに!!」
そのとき、初めて葵ちゃんと眼があった。葵ちゃんの口から、落ち着いた静かな声が洩
れた。
〈『そうや、ウチの感じるところは、紫穂しか知らん』〉
目の前の靄がさぁっと引いた。視界が開ける。
「皆本さんのバカっ!私の気持ち、知ってるくせに!!」
叫ばないと、涙がこぼれてきそうだ。ジャケットの前をはだけ、タンクトップの襟をぐ
いっと両手で引き下げる。93センチのバストが持ち上げられ、さらに大きく前に突き出
す。
「そんな貧乳、縛ったって楽しくないでしょ!!私を縛ってよ!」
葵ちゃんから手を離して、皆本さんはゆっくりと私に近づいてくる。葵ちゃんはくたく
たとその場に崩れ落ちる。
『僕が本当に縛りたいのは、紫穂、君だよ』
皆本さんの手には縄が握られている。
「本当に?皆本さん、葵ちゃんは?」
『君の気持ちが知りたくて、葵を縛るところを君に見せたのさ』
「皆本さん、うれしい」
両手を皆本さんの首に回すと、そのまま顔をむき出しの胸に引き寄せる。同時に膝を思
いっきり、蹴り上げた。
「ぐあああああっ!!!」
インクブスの叫び声がフロアに響き渡った。
「このバカっ!!皆本さんはね、自分の欲望のために誰かを踏み台になんか、絶対にしな
いのよ!!」
〈やった!〉
〈紫穂、偉い!〉
悶絶しているインクブスの股間をヒールで踏みにじる。キ○○マからヤツの情報をすべ
て読み取る(うー、気持ち悪い)。
「こいつ、PK(サイコキネシス)を隠し持ってる!」
〈なんやて!〉
まずい!すぐにここから離れなければ!
「この手でお前を縛ってやりたかったんだけどな!」
悶絶したままインクブスが吠える。縄に足を取られて、走りにくい。一本の縄がするす
ると、脚に絡みつき、登ってくる。とっさに両手を背中に回し、右手で左の肘を、左手で
右の肘をつかむ。左右の肩甲骨がくっつきそうなくらいに胸を反らすと、引き下げた襟に
持ち上げられて寄せ上げ状態になっていたおっぱいが、さらに前に突き出し、強調される
。谷間を深く刻み、メロンが二つ胸にくっついているみたいだ。
乙女の乳首は高価(たか)くつくわよ。
さあ、食いつけ!
交差したてくびに巻きついた縄は、お乳の上下に噛みついてくる。予想以上に縄の動き
は速い。人間は走るとき、腕を振ることでバランスを取るのだけど、後ろ手に縛られてい
ては、うまくバランスがとれない。まだだ。まだ、ヤツの勢力圏から脱していない。息が
苦しくなってきた。呼吸をするたびに、胸を締め上げられて荒い息をついてしまう。喘ぎ
声とも呻き声ともつかぬ声が洩れる。ヤツの妄想をさらに掻き立てるだろう、腹立たしい
が、それも計算のうちだ。足を止め、身を捻ってみせた。すると蛇のような触手がさらに
一本、背中を駆け上がり、肩越しに乳房に伸びてきた。
餌にかかった!
縄は両の乳房の根を絞り込むように、ぐるぐると巻きついてきた。
なんてことするのよ!!この、ばか!!!
part6
インクブスのPKが縄留めを終える頃、ようやくヤツの勢力圏を抜け出すことができた
。呼吸が、つらい。大きく息を吸い込むと、痛いほどにお乳が張り詰める。インクブスが
床を這って、再度勢力圏に私を取り込もうと図る。
そのときにはすでに袖口に隠し持っていたスミスアンドウェッソンM36チーフスペシ
ャル2インチモデルをつかんでいた。38口径5連装の小型リヴォルヴァーだ。ヤツ自身
の手で縛られていたら、発見されていただろう。もっと手首に近いところを縛られていた
ら、取り出すことができなかった。だから私は両手を深く交差させたのだ。
「動くな!!」
インクブスに対して、身体を横向きに銃を構えた。
「当たるものか!」
「両耳!!」
銃声が二度、続いてヤツの絶叫が室内に反響する。インクブスは両耳を押さえて転げ回
る。
「サイコメトラーを甘く見ないでよ。目をつぶっていても、どんな体勢からでも、必ず当
たるわ」
〈どないした?〉
〈今の銃声は何だよ、紫穂!〉
「ピアス穴を開けてあげたのよ、ちょっと大きめだけどね」
〈大丈夫かよ、紫穂は?〉
「縛られちゃったわ、このどスケベ!なんてヤらしい縛り方するのよ!」
〈えっ!どんな風に?〉
「ヤツのPKは【縄限定】、一度に操れるのは、一本だけ。有効範囲は脳みそから半径5
メートル。狭いとはいえ、縄の動きは速い。足を縛られちゃったらアウトだから、おっぱ
いを強調して、コントロールを上半身に誘導したの。見事に引っかかってくれたわ。もっ
ともヤツにしてみれば、追い回し、追い詰めて、絶望の淵に追いやってから、いたぶろう
としたのかもね。ほんと、ゲスなヤツ」
〈だから!!!紫穂のおっぱい、今、どうなっているんだよ!!!!!〉
……薫ちゃん、あなたってコは……。
「たとえば」
〈うん、たとえば?〉
「お皿の上に肉まんの具を置いて、餃子の皮をかぶせたのが普段の胸よ、わかる?」
〈うん、なんとなく〉
「餃子の皮の中に具を思いっきり詰め込んで、口を紐で絞った状態よ」
〈うわぁ、それは……〉
「パンパンに張り詰めて、飛び出してるわ。まるでミサイルみたいよ」
〈ほな、紫穂のおっぱい、今、光ってんねや〉
「そうよ、さっきは葵ちゃんのおっぱいも、光ってたわ」
〈えっ、なんやて?〉
「さあ、そろそろ大詰めよ。どう?【歪んだ脳髄】は視認できる?」
〈まだや、空間座標がどうしても合わん〉
「まだそれだけの精神力を維持しているのね。妄執だけはたいしたものだわ」
「くそっ、やってくれたな」
インクブスは血まみれの両手を床について、起き上がろうとする。
「動くなって言ったでしょ。弾はまだ三発もあるのよ。脳みそをぶちまけたい?」
M36の銃口がぴたりと眉間に向けられていることを知ると、慌てて床に腰を落とした
。
「待て、撃つな!撃たないでくれ!」
「撃っちゃいたいのはやまやまだけど、残念なことに、被害女性の治療にはあんたの脳波
の解析が必要なのよ。ただし、一歩でも動いたら、今度は膝の皿を撃ち抜くわ」
そして、死ぬよりつらい目に合わせてあげるわ、そう私は心の中でつぶやいた。私に射
殺の意志がないことがわかると、たちまち眼に淫靡な光が蘇ってくる。現金なヤツめ。
「俺はずっとこのままでもいいけど、これからどうする?そろそろ君が眠らせた女たちも
起きてくる頃じゃないかな?」
背筋を戦慄が走り抜けた。ほたるさんと奈津子さんに見せられた被害女性の映像が脳裏
に蘇ったから。挟み撃ちにあったら、縛られている私には抗うすべがない。
「その前にけりをつけてやるわよ!」
声が震えているのが自分でもわかる。だめよ、ネガティブな感情は、ヤツの格好の餌食
。私を動揺させる手だ。二時間程度で目覚めるような、そんなやわな電撃ではないはずだ
。
だけど。
被害に遭った女の子の身体に傷はつけたくなかったから、手加減も入っている。正直、
いつ覚醒するか、正確な時間までわかるはずもない。
「やっぱり、あんたいい女だな。縛られて飛び出したおっぱいがたまらないよ。乳首もじ
んじんと疼いているんじゃないか?」
心の隙間に忍び込むような言葉と、乳房を搾り出している縄を介しての精神攻撃だ。
「楽になりなよ。最高の快楽を教えてやるぜ。どんなに強い意志を持っていても、肉の悦
びには勝てない。強ければ強いほど、心が身体に裏切られたとき、より深く快楽に溺れる
のさ。両の乳首を同時に吸われる感覚って、想像できるかい?」
10分前の私だったら、ここで心が折れてしまったかもしれない。絶望、屈辱、諦め、
そして……屈伏。
だけどね。
インクブスは、絶対やってはいけないことをやったのだ。
皆本さんへの想い。仲間への想い。大切な宝物に唾を吐きかけ、土足で踏みにじったの
だ。
私は。
私は!!
怒ってるのよ!!!!
「それ以上喋るな、ドーテー野郎、耳か腐る」
「なんだと?」
「耳が腐るって言ったのよ、ドーテー野郎」
「誰が童貞だ!俺が何百人もの女を犯したのを知ってるだろう!」
「だからドーテーだって言うのよ。あんたがやったことはレイプよ、セックスじゃない!
」
「愛がないってか!はっ!処女の言いそうなことだ。愛なんてものは存在しないよ。ある
のは欲望と快楽だけだ。人間ってのはな、絶望も屈辱もすべて快楽のためのスパイスにで
きるんだ。それを今、あんたに教えてやる」
「ウソよ。あんたは人を愛したいし、愛されたいのよ。でも、それが得られないから、人
を愛する方法も知らないから、そんなものいらないって、いきがっているのよ」
「違う!俺は愛なんて信じていないし、欲しくもない!」
「だったらなんで次から次へと女性を漁るのよ。満ち足りているのなら、そんな必要ない
じゃない!あんたの心の中はカラッポよ。どれだけ快楽を貪っても、満たされないから、
常に飢えているんだわ」
インクブスが言葉に詰まったところにさらにたたみかける。
「あんたは子供のときから人を操ってきたわ。傷つけられるのが怖くてね。だけどね、人
って、傷つけられて、傷つけて、心を耕していくものなの。桜だって、つらい冬を経て、
春に花開くのよ。悲しみを知っているから、喜びも深いの。愛なんか信じないっていうけ
ど、それは、ウソ。信じられないのよ。まともな人間関係を築いたことが一度もないから
」
一階から二階へと向かう階段を上がってくる女の子の姿が透視(みえ)たから焦ったけ
ど、踊場に座り込んだきり動かない。彼女へのヒュプノの呪縛が、はっきりと弱まってい
るのだ。
「仕方ないだろ。こんな能力(ちから)欲しくて生まれたんじゃない。この能力(ちから
)が悪いんだ」
「甘えてんじゃないわよ!」
私はインクブスを怒鳴りつけた。
〈まるっきりガキやな。ええおっさんなんやろ〉
葵ちゃんには小声で答える。
「一応、29歳よ。自分を守る鎧が強すぎるヤツは、中に入られると脆いのよ」
今度はインクブスに向かって。
「私の知り合いのヒュプノはね、看護師として、ターミナル・ケアの現場で終末期の患者
さんに癒やしと安らぎを与えられることに誇りと生きがいを持っているわ。それだけの能
力を持っているのに、情けないこと言わないでよ!能力(ちから)には何の罪もない。あ
んたは、自分で犯罪者の道を選んだの。
私たちエスパーは、何にだってなれるし、どこにだって行けるのよ!」
[何にだってなれるし、どこにだって行ける]それは、私たちが10歳の時に、皆本さん
から贈られた言葉。私たちはこの言葉を支えに、今日まで生きてきた。そしてこれからも
……。
〈紫穂、あんたの空間座標ははっきり認識できるで。こっちはいつでもOKや〉
「ありがとう、葵ちゃん。でもちょっと待って。薫ちゃん、この建物、見えてる?」
〈バッチリさ。ボロいビル〉
「じゃあ、合図をしたら薫ちゃんが最上階西側の窓を思い切りぶち破って飛び込んできて
。それでヤツを守っているすべては粉砕されるはずよ」
〈OK、あとちょっとだね〉
そうね、薫ちゃん、詰めを過たないようにしなくちゃね。
力なくうつむいて、ぶつぶつと何かわからないことをつぶやいているインクブスに向き
直ると、大きく息を吸った。縄にくびられた乳房が張り詰めて苦しい。気がつけば、谷間
は汗びっしょりだ。
「ねえ、○○○○」
インクブスが親からもらった名前で、彼を呼んだ。
びくっ、と顔を上げる。でもその目は何も見ていない。
「あんたを心から愛してくれた人がいたじゃない。忘れたの?」
インクブスのつぶやきが聞こえてくる。
「ママ……、ママ……、助けて、ママ……」
「あんたが道を踏み外しそうになったとき、ママは本気で叱ってくれたじゃない」
「ママ……、ママ……、違うんだ、ママ……、ごめんなさい……」
「あんたが初めて女の子を毒牙にかけたとき、ママは泣きながらあんたをぶったわ」
「ごめんなさい……、ごめんなさい……、ボク、わからなかったんだ」
「それが本当の愛情だったのよ。でも、あんたは」
「ママごめんなさい……、ママ違うんだ……、お願い、言わないで……」
「あんた、ママに何をした?ママは今、どこにいる?」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
インクブスの絶叫、ヤツの自我が音を立てて崩壊する。
「今よ、薫ちゃん!」
ガッシャアアアン!!!
大きな板ガラスが内側に弾け飛び、砕け散った破片が、入り日を受けて真紅に染まる。
血に染まった母の子宮……。
「よくも紫穂を!!
サイキックゥッ
ボンデージ・インフェルノ(緊縛地獄)ー!!」
床に散らばった大量の縄が、一斉にインクブスに襲いかかる。
「ぐわあああぁぁ!!」
皆本さんが駆け寄って、エスパー錠を掛ける。
えっ?皆本さん?
ぽっかり空いた窓の穴から、残照を浴びて浮かび上がるシルエットは三つ。
薫ちゃん、葵ちゃん、そして……皆本さん!!
いやっ!!皆本さんにこんな恥ずかしい姿見られるなんて!どうしよう、全身が熱くなる
。隠すことも隠れることもできないなんて、心臓が爆発しそうよ!いやっ!!見ないで!で
も見られてしまう。縄に絞り出されてロケットみたいに膨れ上がったお乳も見られてしま
う。皮膚が薄く張りつめて光っているおっぱい。充血して赤くなり、脂汗でさらにてらて
らとぬめりを帯びて光っているおっぱい。これ以上ないほどに鋭敏になった神経が、乳房
を縦横に走り、それはやがて尖りきった二つの頂点を目指す。
床に横倒しになることで強調される腰の張り、短すぎるスカートから伸びる二本の脚、
すべてが汗でぬるぬるに光っている。見られているという意識が、さらに全身を敏感にし
ていく。恥ずかしいって、こんなに感じるものなの?!
恥ずかしさに悶えている私って、皆本さんにはどんなふうに映るのかしら?
色っぽい?それとも、いやらしい?
思わず太腿をもじもじとこすり合わせると、ぬめぬめした感触に陶然となる。
「大丈夫か、紫穂!」
駆け寄る皆本さん。
「いやっ、見ないで、恥ずかしい」
媚びを含んだ喘ぎ声になっているのが、自分でもわかる。
皆本さんの手が私の肩にかかり、助け起こそうとしてくれる。こんなときの皆本さんの
心を透視(よみ)たいと、ずっと思っていたけれど、とてもムリ。必死になって能力(ち
から)に掛け金を下ろす。
あらわになった胸を隠すように上着を着せかけてくれる皆本さんに、私は彼の指が私の
乳首に触れるように身をよじった。
あまりの衝撃に、目の前と乳首とあそこに白い火花が散る。
「はああああぁぁぁん!!!」
今の声、私?我ながら、びっくり!
皆本さんは、びくっと、手を引っ込めた。薫ちゃん、葵ちゃんの四つの目からどす黒い
オーラが沸き立つのがはっきり見える。
「すぐに縄を解いてやるからな、紫穂」
皆本さんの声がうわずっている。
「いやっ、まだ解かないで」
黒オーラはフロアいっぱいに充満しそうだ。まずいなあ。でも、もう止められない。
「お願い、おっぱい、吸って」
ヒュパッ!
「ぐわあああぁぁ」
縄抜けテレボートで私は二人の間に、皆本さんはテント張ったまま壁にめり込んでいる
。あ〜あ。
「危ないところやったなぁ、紫穂」
「ほんと、貞操の危機だったね」
「助かったわ。二人ともありがとう、感謝してる」
「セリフが棒読みだぞ」
「はよ、乳、しまいっ、やらしい」
情け容赦ないなあ、二人とも。でも、そこがいいところなのよね。
「立てるか?手ぇ、貸そか」
うん、と立とうとして、あれ?腰から下に力が入らない。葵ちゃんに手を貸してもらっ
ても、だめだ。
「あっ、だめだ、腰が抜けちゃったみたい」
「えっ」
「それって……」
「あ〜あ、すっかり襟が伸びちゃったし、せっかくの勝負パンツだったのに、ぬるぬるの
ぐっちょぐちょで気持ち悪い。帰ったらすぐに着替えなきゃ」
「ぬるぬる……」
「ぐっちょぐちょって……」
二人とも、頬を真っ赤に染めている。可愛いなぁ、もう。
「そんなにすごかったの、縛られるって」
「うん、恥ずかしいって、すごいね。隠したくても隠せないって、すごくメンタルな面で
感じる。物理的にも敏感になっているしね」
「はああああぁぁぁんって」
「そう、はああああぁぁぁんって」
さすがに、あれと同じ声は二度と出せないなぁ。
「ウチ、なんか、変な気持ちになってきた」
「言ったでしょ。私は葵ちゃんの感じるポイント、全部知ってるって」
「よーし、今夜は葵を縛って、性感帯チェックだ」
「えっ、そんな、心の準備が!」
「もちろん、四人でね」
六つの瞳が怪しく光る。やっと壁から這い出してきた皆本さんの顔から、音を立てて血
の気が引いていくのが、透視(み)なくても、わかった。
-END-