絶対可憐チルドレン外伝 サイコメトラー危機一髪


part1
  21世紀、エスパーは増え続けていた。                                            
彼らは軍事・経済・外交と、あらゆる分野で活躍し、国際競争のカギを握っていた。
ESPを制する国が世界を制す!だが、その才能は貴重で、超度(レベル)4以上の者
は全体の3%以下にすぎない。
政府と契約している「超度(レベル)7」は3名のみ。
内務省特務機関 超能力支援研究所(通称:バベル)所属 特務エスパー
明石 薫(18) 念動力者(サイコキノ) B88 W58 H86 性格 ナマイキ
でオヤジ
野上 葵(18) 瞬間移動能力者(テレポーター)B80 W56 H83 性格
ナマイキでカマトト
三宮 紫穂(18) 接触感応能力者(サイコメトラー)B93 W59 H86 性
格 ナマイキで性悪
コードネーム 「ザ・チルドレン」
彼女らは世界を滅ぼす悪魔にも、世界を救う天使にもなれた。
「正直、こんな写真、君たちには見せたくないんだけれどね」
主任の皆本さんは、眉間に皺を寄せて、一枚の写真を内ポケットから取り出した。
葵ちゃんが顔を真っ赤に染めて叫び声を上げる。
「いやーっ!!皆本はんフケツ!!うちらにそんなもん見せて、どないしょうというの!!」
「皆本っ、どこのSMクラブに行ったんだよ!」
薫ちゃんの目尻はすっかり下がって、口からはよだれが垂れてきそうだ。かわいい顔を
しているのに、こんな時の薫ちゃんはオヤジそのものだ。私はと言えば、こんなものに動
揺するほど、やわな人生経験を積んでいない。
「紫穂、すまないが、透視(み)てくれないか」
18才の女の子にこんな写真を透視させることを心からすまないと思っている。そんな
皆本さんの思いが、私の心を暖かく浸す。私はこんな能力を生まれ持ってしまったから、
人の心の闇を覗くことに慣れてしまっている。薫ちゃんや葵ちゃんには、心の闇を覗いて
楽しんでいる、なんて、露悪的なことを言ったりもするけど、正直、楽しんでいる部分も
確かにあるけれど、そうとでも思わなければ、精神の平衡を保つことなんてできやしない

男の子とデートしても、手をつなげば、その子に自分が犯されているイメージが映像と
して脳内に流れ込んで来る。
もう、人間嫌いになるか、開き直ってそれを楽しむしかないじゃないの。
でも、人間に対して悲観的になっているわけではない。子供の頃から、人間の汚い部分
を透視(み)てきた私だけど、人はそれだけではないこともちゃんとわかっている。パパ
や、薫ちゃんや葵ちゃん、それに皆本さんが私を理解してくれているから、そして、私の
能力が人を救うことがあることも知っているから、私は、私の能力と仕事に誇りを持つこ
とができる。
手を伸ばして写真を受け取ろうとすると、薫ちゃんが横から奪ってしまった。
「それにしても縛られた女の人って、エロいよな。乳なんてものすごくデカくなるし」
「ウチはイヤや。女の人をいじめて、何がうれしいのん、変態やん」
葵ちゃんは手で顔を覆っているけれど、指の隙間からちらちら写真を覗いている。
「病的なサディストやマゾヒストはそんなにいる訳じゃないのよ。金の力や暴力、クスリ
の力で縛るのは論外だけど、対等のパートナー同士が愛情を持って行う緊縛プレイは、性
感を高めるためのものなの」
「どうゆうこと?」
葵ちゃんも写真をつまんで、しげしげと見入っている。葵ちゃんはカマトトだから、い
やだと言いながら興味は人一倍あるのだ。
「もちろん、メンタル面、愛情がもっとも大切なのは言うまでもないんだけどね。
たとえば、胸がすごく強調されるでしょ。腕を背中で交差しているから、背筋がピンと
伸びて、胸が前に突き出す格好になるわけよ。それに縛られた胸って、すごくツヤがある
というか、光っているでしょ。なぜだと思う?」
二人は首を横に振る。
私はゴム風船を取り出すと、少し息を吹き込んで口を結んだ。どこから出したんだ、と
か、いつも持ち歩いているのかってツッコミはナシね。
「これを普段の胸だとするわね。縛られると、それがこうなるわけ」
私はゴム風船の口元から先端に向けて手で絞っていった。風船は硬く張り詰め、色も薄
くなって光を透かした。
「皮膚の表面はよく見ると細かい皺が寄っているわ。それがこうやって絞られると、薄く
引き伸ばされて、光をまっすぐ反射するから光り輝くの。張り詰めて神経がむき出しの状
態になるから、皮膚感覚もものすごく鋭敏になるってわけ」
「はあ、そんでおっぱい光ってんねや。ウチ、なんや、ドキドキしてきた」
「葵の胸も、縛られたらデカくなるかな」
「胸のことは言わんといて!」
「盛り上がっているところ悪いが、紫穂、透視を頼むよ。愛、金、暴力、クスリ以外にも
人を縛るものがあるんだ。僕らはそれを探らなければならない」
皆本さんの言葉に私たちの表情が引き締まる。金や暴力以外で人を縛るもの、もちろん
愛ではない。それに思い当たるものがあるのだ。
「わかったわ。
サイコメトラー、三宮紫穂、解禁」
皆本さんが私のESPリミッターを解除する。手のひらに神経を集中させる。
「この女の人、精神汚染されているわ。心も体もレイプされている。ヒュプノ(強制催眠
能力者)のしわざね。
皆本さん!!」
私は顔を上げて皆本さんを見つめた。薫ちゃんと葵ちゃんの瞳に怒りの灯がともる。も
ちろん私の瞳にも。
「治療は可能か?」
苦悩の表情を浮かべたまま、皆本さんは尋ねた。
「写真だけでは、状況は完全にはわからないけど。おそらく潜在意識の最深部にまでダイ
ブして、サルベージしなくてはならないでしょうね。ヒュプノの影響を排除しても、切り
裂かれた心の傷は、いつまでも彼女をさいなむわ。時間がかかると思う」
「皆本っ!!詳しい話を聞かせてよ」
薫ちゃんの声が怒りに震えている。
皆本さんは静かに語り出した。
「その写真を持っていたのは、人身売買組織のメンバーと思われる。"思われる"と言うの
は、逮捕した時にはすべての記憶を失っていたからだ。あらかじめプログラムされていた
可能性が高い。高レベル超感覚能力者が黒幕にいると推測される。紫穂にはすまなかった
が、それが裏付けされたことになる」
「ひどい!催眠で言いなりにしてもてあそぶなんて!女をなんやと思うてるんや!」
「絶対に許さない!皆本っ!!この組織、必ず潰すからね!」
「もちろんよ!このヒュプノ、死ぬよりつらい目にあわせてやるわ」
「よし、【ザ・チルドレン】出動だ!」


part2
「人身売買組織の全容がほぼ解明された。組織の名はナイトメア、首領格の強制催眠能力
者(ヒュプノ)のコードネームはインクブスだ」
「ナイトメアにインクブスか。ふざけたネーミングね」
「ほんまやな」
「えっ、ちょっと待って。ナイトメアは悪夢って意味でしょ。インクブスってどういう意
味?」
「インクブス言うのは女性に淫らな夢を見させる悪魔のことや」
「なるほど、たしかにふざけたネーミングだね。あっ、じゃあさ、男の人にHな夢見させ
る悪魔もいるんだね」
「そっちはスクブス言うねん」
「インクブスにスクブスか、舌噛みそうだね、それにどっちがどっちだか、こんがらかり
そう。でもさ、どこでそんなこと習うの?」
「えっ……」
私と葵ちゃんは思わず顔を見合わせた。
「そらぁ……、どこやろ?」
「今日の任務の目的は三つ。まずナイトメア組織の壊滅。次に被害者の女性の救出、最後
にインクブスの逮捕だ。大掛かりなミッションになるため、【ザ・チルドレン】の三人に
加え、【ザ・ワイルドキャット】の梅枝ナオミくん、【サイコ・ドクター】の賢木、【ダ
ブルフェイス】の常盤奈津子くん、野分ほたるくん、以上七人でチームを組む。指揮は僕
、皆本光一が執る」
すごい、内務省特務機関【バベル】が誇る高超度(レベル)エスパーが勢ぞろいだ。皆
本さんは壁面の巨大モニターのスイッチをオンにした。そこには誰もが知っている都心の
超高級ホテルが映し出されていた。
「現在、この建物の中では、とあるパーティーが開かれている。出席者は政・財・官界の
大物ばかりだ。しかし、パーティーと言うのは隠れ蓑に過ぎない。その裏で、あるオーク
ションが開かれようとしている。常盤くん、君の能力で、ホテルの内部を透視してくれな
いか。そして、その視覚イメージを野分くんが皆に転送してほしい」
「はい、わかりました」
遠隔透視能力者(クレヤボヤンス)の常盤奈津子さんが、パーティー会場を透視する。
その視覚イメージを、精神感応能力者(テレパス)野分ほたるさんが全員に転送する。
「ほおっ、すごいメンバーが勢ぞろいだな。現職の大臣クラスの顔もちらほら見えるぜ。
こいつらが一斉に人身売買の現行犯で逮捕されたら、わが国の政治・経済は大混乱だぞ」
「賢木センセイ、うれしそうやな」
「こんな痛快なこともないからな。まっ、どうせ二か月もすれば、大臣や企業のトップの
顔が入れ替わるだけで、何事もなく日常は流れていくんだろうけどな」
「腐敗した権力と言うのはまったく、度し難いものだな。金と権力を握った途端に、自分
が特別な存在になったような気がするんだろうさ」
「大統領だろうが、神様だろうが、人の幸福を踏みにじる権利なんかありゃしないよ。こ
いつらみんなギッタギタにしてやる」
「薫、ナオミくん、彼らの顔をよく覚えてくれ。サイコキノ二人の任務は、彼らとナイト
メアのメンバーの逮捕だ。殺さない程度に派手にやってくれてかまわない」
「了解」
「それでは奈津子くん、建物のどこかに被害者の女性たちが監禁されているはずだ。それ
を探してほしい」
「はい」
奈津子さんが精神を集中させる。一度映像がかすみ、やがて別の画面に焦点が合ってく
る。そこに映っていたものは……。
「ひどい……」
「これは……」
どよめきが起こった。
女の子たちは、全部で20人ぐらいはいるだろうか。すべて麻縄で後ろ手に縛られてい
る。奇異なのは、彼女たちの衣装だ。いわゆるコスチューム・プレイというやつ。メイド
、ナース、CA、婦人警官、ナ○スの軍服もある。エ○ァンゲリ○ンの綾○、セー○ーム
ーン、プリ○ュア、ガン○ムのセ○ラさんやロケ○ト団までいる。
向かい合って、縄に絞り出された乳房と乳房をこすり合わせている二人の女の子がいる
。脚を広げた状態で椅子に縛りつけられた女の子の股間に顔を埋め、舌を使っている女の
子もいる。部屋の隅では、全員が縛られているのに、一人の女の子を五人がかりで全身舐
めまわしていたりしている。
おぞましいのは、みんな恍惚の表情を浮かべ、嬌声をあげているのに、本当に喜んでい
るようには見えないことだ。仮面を被っているみたい。
酸っぱいものが喉もとまでせり上がってくる。これ以上見たくないのに、目をつぶって
も直接脳に流れ込んでくるイメージは消えてはくれない。見たくないものまで見えてしま
う能力を、私はずいぶん呪った。奈津子さんやほたるさんも、やはり自分の能力を呪って
いるんだろうな。精神感応系能力に耐性がない葵ちゃん、薫ちゃん、ナオミさんの三人は
、そんなことをしても無駄だとわかっているのに、目をつぶり、耳をふさいで「もう、や
めてー」と叫んでいる。甘えたこと言ってんじゃないわよ、私たちは子供の頃からこんな
もの見続けているのよ、という【ダブル・フェイス】の呪詛の声まで聞こえてくるようだ

「ありがとう、常盤くん、野分くん、もう結構だ」
皆本さんの声で、やっと解放される。
「あの子たち……、何で……、あんなこと……」
ナオミさんの声が震えている。
「さっきのやつらがモニターで見ているんだよ。商品の品定めってやつだ」
賢木センセイが解説をする。
「彼女たちは少しでも高く自分たちを買ってもらおうと、ああして媚びを売っているのさ
。操られるままにね」
ナオミさんは聞きながら、手で顔を覆って嗚咽を漏らした。
「許さない、絶対に許さない!!」
「皆本はん、ウチもあいつらに【寸止めフリーフォール】食らわせたって、ええ?」
【寸止めフリーフォール】というのは、テレポートで地上30メートルまで人体を持ち
上げて、そこから自由落下!!地球とキスする寸前にすくい上げるという、葵ちゃんの究極
奥義、必殺技だ。葵ちゃんいわく、「これで失神せんやつはおらん」
「気持ちはわかるが、葵と常盤くんは救助担当だ。わかるな」
「はい」
二人はしぶしぶうなずく。葵ちゃんの空間認識能力だけでも、彼女たちを救出すること
は可能だと思うけど、奈津子さんのサポートがあれば、より完璧になる。
「そして、もっとも肝心な被害者の精神面のヒーリングを野分くん、賢木、紫穂が受け持
つ。何日も、場合によっては何週間もかかるかもしれないが、よろしく頼む」
「まかしておいて」
ほたるさんと私がうなずく。
「わかっちゃいるとは思うが、とくに紫穂ちゃんとほたるくんは気をつけてほしい。被害
女性に同情するあまり、精神をシンクロし過ぎると、自分が帰ってこられなくなる」
「賢木センセイに言われなくても、そんなことわかっているわ」
「相変わらず、可愛くねーな」
可愛くなくて、悪かったわね。同じサイコメトラーである賢木センセイには、同族嫌悪
のような反発心を、つい抱いてしまう。
「さて、最後にインクブスの逮捕だが」
皆本さんは困ったように私を見る。
「紫穂、どうしても、やるのか」
「ええ、やります」
私は胸を張って、まっすぐに皆本さんの目を見つめる。皆本さんは狼狽して、私から視
線を逸らす。目のやり場に困っているのだ。やったネ・心の中で快哉を叫ぶ。全力で皆本
さんの心の中を覗きたいと思うのは、こんな時だ。
「紫穂、なにするつもりやのん」
葵ちゃんが猜疑心に満ちたまなざしを向ける。
「今日のその格好、気合い入りすぎてない?」
気合い入っているわよ、いろんな意味で。
「まずはこれを見てくれ」
皆本さんが合図を送ると、スクリーンに別の映像が映し出された。
「紫穂、ここに間違いないか?」
「ええ、間違いありません。ここがインクブスのアジトです」
また、ざわめきが起こる。
「うそっ、ただの更地じゃん」
賢木センセイにも更地にしか見えないらしい。
「静止画、動画を問わず、アナログ、デジタルあらゆるデータがヒュプノの影響を受けて
いるんだ。紫穂によれば、ここには3階建てのビルがあるらしい。インクブス自身はもう
何年も、ここから一歩も出ていないそうだ」
「あの一枚の写真から痕跡を追って、ついにここまでたどり着きました」
ハイヒールを鳴らしながら、私は前に進み出る。ほんとは5インチのヒールを履きたか
ったんだけど、それでは走れない。4インチで我慢するしかないな。ちょっと残念。
「インクブスのヒュプノとしての超度(レベル)は6程度と思われます。しかし、この建
物の内部ではレベル7相当の力を持っています。私でも全力でパワーを放出しないとはっ
きりと見えないし、試してみましたが、外部から攻撃することはできません。こちらの感
覚が狂わされてしまうんです。
まさにここは裸の王様の宮殿であり、ヤツの病んだ脳髄であり、母の胎内であり、永遠
に羽化することのない繭なのです」
-続く-