シリーズ瑞希 第1章


part1
 九年間勤めた会社をやめた。社長の娘との縁談を断った挙句のことだ。カッコイイ?バ
カ言っちゃいけない。「君はもっと賢い男だと思ったのだがな。残念だよ」辞表を受け取
りながら、社長は言った。もっともだと思う。俺も自分はもっと賢い男だと思っていた。
 父は出世欲・権力欲の権化のような男である。その欲望を満たすためなら、妻だろうが
実の子どもだろうが、すべてを犠牲にし利用してきた。俺の就職先を決めたのも父だ。そ
して今回の縁談も父がお膳立てをした。いわゆる政略結婚というやつだ。別に俺一人が我
慢すればよかったのかもしれない。父に利用されるのはいけすかないが、なにも今に始ま
ったことじゃない。なにより未来の社長の座が約束されていたのだ。         
 しかし、姉のような女性がもう一人増える、ということに我慢がならなかった。五歳年
長の姉は、大日向商事の発展のために、父親ほど年の離れた男のもとに十八歳で嫁いでい
った。姉の青春はこれから花開こうとしていたのに。その日を境に、彼女の顔から笑顔が
消えた。もっとも、彼女から笑顔を奪った責任の一端は、俺にある。         
 あの日から、もう十八年の歳月が流れようとしている。              
 あの男の顔に泥を塗り、計画を台無しにした人間を、あの男が許すはずもなく、また、
こちらも許されようなんて思っちゃいないから、俺は家を出た。なに、男一匹、食ってい
くのに困りはしない。                              
 一週間ほど床に伏せってしまった。心労が続いたところに風邪につけこまれてしまった
のだ。仕事もなかなか見つからないし、体が弱ってくると心まで弱ってくる。部屋の中も
食い散らかした食器や、丸められたティッシュペーパーが散乱している。生活が荒れると
精神もすさんでくる。ろくなことを考えない。そろそろ床をあげて、掃除でも始めようか
と思った矢先、部屋のドアホンが鳴った。                     
「どうぞ、開いてるよ」ドアに向かって声をかけた。六畳一間の狭い部屋だ、ドアの外ま
で楽に声は届く。                                
「こんにちは、龍彦おじさま!」ドアから顔を覗かせたのは、セーラー服姿の少女だった
。                                       
「瑞希ちゃんじゃないか、どうしたんだい?」驚いた。姉の一人娘の瑞希だった。つまり
俺の姪にあたる。良家の子女が通うR女子高校の二年生だ。R女子高校は彼女の母親の母
校でもある。                                  
「ママからおじさまが病気だって聞いて、ご飯つくってあげようと思ったの」     
「それはありがとう。うれしいよ。汚いとこだけどあがって」            
 お邪魔しますと言いながら、瑞希は後手でドアを閉める。カチリと音がした。靴を脱ぐ
とその場に膝をつき、靴の向きを変える。しつけが行き届いていることを感じさせる。 
 さっきの音は、ドアをロックしたのか。なぜ?                  
 紺のハイソックスと襞スカートの間から覗く真っ白なふくらはぎが眩しい。濃紺のセー
ラー服にはカラーと袖口に白のラインのアクセントが映える。志願者を増やすため、制服
のデザインを替える学校も多いと聞くが、R女子高は頑なにセーラー服に拘っている。十
八年の歳月を越え、あの日の記憶が俺の中に蘇る。                 
「うわぁ、きったな〜い。しょうがないなぁ、男の人の一人暮らしって。はい、そこをど
いてどいて。不潔にしていると病気になっちゃうよ」                
 瑞希はずかずかと部屋の中に上がりこむと、いきなり窓を開け放つ。光と風、そして喧
騒が妄念に捕われかけた俺を現実に引き戻す。                   
「おいおい、いいよ、掃除までしてくれなくっても。いろいろ見られちゃまずいものもあ
るし」                                     
瑞希は大きく深呼吸をすると、俺に向き直りにっこりと笑い、足元の男性雑誌を拾い上げ
ぱらぱらとめくった。                              
「気にしないで。Hな本のことでしょ。男の人はしかたがないんだってママが言ってたモ
ン。へ〜、おじさま、この人が好きなんだ。でも私の方がおっぱい大きいよ」     
 いつもの天真爛漫な瑞希だ。やはり俺の思い過ごしに過ぎない。少し気持ちが落ち着い
てきた。無邪気すぎる瑞希をちょっとからかってやろう、と思った。         
「生意気言って。じゃあ、みせてごらん」                     
「やだ〜、おじさまのエッチ〜」                         
「男の一人暮らしの部屋に若い女の子が一人で入ってはいけませんってママは言ってなか
ったかい?」                                  
「だから今日、ここに来たことはママにはナイショ」                
「おいおい、大人をからかうなよ」                        
「ほら、邪魔だよ。そっちへいってて。私を襲ったらたいへんだよ。30男、無職、独身
、実の姪を襲うって、それだけでも大騒ぎなのに。大日向商事の社長の一人息子なんてわ
かったら、もうワイドショー大喜び。あっ、そうすると私TVにでれるかな?」    
「俺はもう大日向商事とはなんの関係も無いよ。あの家も出たんだし。まあ、あの人が嫌
がることなら、なんだってしたいと思うけど、そのために瑞希ちゃんを襲おうなんて思わ
ないよ」瑞希はふっと手を止めた。                        
「ごめんなさいね。そんなつもりなかったんだけど」                
「いや、気にしないで。俺もおとなげなかった」                  
「でもおじさまはいいな。やっぱり男の人ってうらやましい。一人で生きていけるから」
「古いことを言うね。女の人で一人で生きている人はいっぱいいる」         
「でもママはそれができなかった」                        
 張り詰めた空気が流れる。瑞希の指が所在なげに押入れの引き戸に触れる」     
「あっ、押し入れ開けないでね。恥ずかしいから」                 
「はいはい。うわ〜、Hな本、いっぱいだね。女の人、ほんとに好きなんだ」     
 緊張した空気が解ける。ほっとした。                      
「そりゃ好きだよ、健康な男子なんだから。お嬢様学校ではそんな話はぜんぜんしないの
かい」                                     
「女の子ばかりの方がきっと、すごいよ。すっごく興味あるもん。みんな経験がなくて口
ばっかりだけどね」                               
「女子高って響きがいいなぁ。いちどのぞいてみたいけれどね」           
「おやじだなぁ。みちゃったらきっとゲンメツするよ。授業中にブラの紐なおしてると、
あっ、オナニーしてるっていわれるんだよ」瑞希の口からオナニーという単語が飛び出し
て、ドキッとする。                               
「すごいこというんだね」瑞希が布団をめくり上げようとする。           
「あっ、そこは!!」布団の下には女性を縛り上げた写真集が数冊隠されていた。   
「えっ!おじさま、こんなのもみてるの?」瑞希が眉をひそませる。         
「い、いや、誤解しないでくれよ。おじさんは女の人をいじめるのが好きなんじゃないん
だ。縛られた女の人がきれいだから、それで……」                 
瑞希は緊縛写真集をパラパラとめくっている。唾を飲む音が聞こえる。        
「瑞希ちゃんは軽蔑するかもしれないけど、でも、よく見ておくれよ、あぁ、なにいって
んのかな。つまり、僕は、すごくこの女の人たちがきれいだと思うわけで、けっしてムリ
ヤリがすきとか、犯罪にあこがれてるとかじゃなくて……」なに言っても無理だな。彼女
はきっと逃げ出すように部屋を出て行き、二度とこの部屋にはやってこない。     
「ねぇ、おじさま。私もこの人たち、すっごくきれいだと思う」           
「えっ、瑞希ちゃん……」                            
「私もきれいになれるかな」そういいながら瑞希は窓を閉め、錠をおろしてカーテンをひ
く。                                      
「さっきみちゃったんだ。押入れの中に縄の束がかくしてあるの」          
「瑞希……」                                  
「ねっ、おじさま。……いいよ。……しても」                   


part2
 フラッシュバック。                              
 悪夢が蘇る。                                 
 封印してきた記憶。                              
 記憶の中の顔に、瑞希の顔が重なる。                      
「瑞希ちゃん、今、何ていった?」                        
「二度も言わせないで」瑞希の目がまっすぐに俺の目を射抜く。この俺が、気圧されてい
る?これが若さか。                               
 眩暈。フラッシュバック。心臓を鷲掴みにされているようだ。           
「大人をからかっちゃいけない」瑞希が俺をからかってなどいないことは、百も承知だ。
落ち着け。落ち着け。俺は煙草を取り出し、火をつけようとする。          
「わたし、本気よ。ずっと、龍彦おじ様のことが好きだった」            
 瑞希が俺の胸に飛び込んでくる。雨に濡れた小鳥のように震える細い肩、強く抱きしめ
れば折れてしまいそうだ。女の子の体って、どうしてこんなに柔らかく、熱いのだろう。
どろどろに溶けたマグマの塊を抱きしめているようだ。               
 腕に力を込めてはいけない、そのまま一緒に俺も溶けてしまう。俺は触れただけでこな
ごなに砕けてしまう精緻なガラス細工を扱うように、そっと瑞希の肩を抱き、瑞希の涙に
濡れた瞳を見つめて、言った。                          
「なにが、あったんだい?」                           
「おじさま、わたし、高校を卒業したらお嫁にいっちゃうの」            
「なんだって?」                                
「昨日、おじいさまに呼ばれたの。パパと見知らぬ男の人がいたわ。この人がおまえの夫
になる人だって。なんとか商事の会長の孫だって」                 
 またあの男か!俺があの男のいいなりにならなかったから、今度は孫娘を犠牲にしよう
というのか。激しい憎悪が俺の全身を満たす。                   
「瑞希!そんな、言いなりになっちゃダメだ!おまえの人生はおまえのものだ!」   
「おじいさまはこう言ったわ。君の父親も了解していることだ。おまえの幸せを願っての
ことなんだよ。未来の社長夫人だ、一生なに不自由しない暮らしができる。なんの不満が
あるね」                                    
 俺はいつしか笑っていた。あの男の言いそうなことだ、なんてうすっぺらな人生観だろ
う。あの男は人を愛する喜びも、本当の幸せも知ることなく、老いて死んでいくのだ。俺
は、自分の父親でもあるあの男に憐れみをさえ感じていた。             
「おじいさまに、いえ、大日向龍一郎に逆らうことなんかできないわ。わたしはママと同
じ。でもね。わたし、男の人とつきあったこともないのよ。一緒に喫茶店に行ってくだら
ないおしゃべりをしたり、遊園地であそんだり、そんな思い出さえないの。だから、大好
きなおじさまに思い出を作って欲しいの。おじさまに女にして欲しいの。そうすればわた
し、その思い出を胸に抱いて、きっと生きていけるから。だから、わたし……、おじさま
の……、悦ぶことなら……、なんでも……、」                   
 最後は涙で言葉にならなかった。                        
「ばかだな」                                  
「えっ」瑞希は顔をあげた。                           
「戦えばいいんだよ、大日向龍一郎と。おじさんがついてる」            
「そんな、ムリよ。わたし、おじさまみたいに強くない」              
「大丈夫さ。ママはまだこのことを知らないんだろう?」瑞希はこくんと頷いた。   
「ママがこのことを聞いたら、きっと黙っていないさ。彼女も大日向龍一郎に青春を奪わ
れたんだ。きっと協力してくれる。戦おう、解放されるんだ。自棄(やけ)になってバカ
なことを考えなくていいんだよ」                         
「わかったわ。わたしも覚悟を決める。でも、わたしは本気よ。バカなことなんかじゃな
い。お願い、おじさま。わたしに勇気をください。いつもおじさまが一緒だって、感じて
いたい」                                    
「それは……」                                 
「女の子に恥をかかせないで。それとも、やっぱりわたしじゃ、だめなんですか?」  
「後悔しないね?」                               
 頷くかわりに、瑞希は両腕を後ろにまわし、そっとまぶたを伏せた。長いまつげが頬に
陰を落とす。                                  
 既に畜生道に堕ちた身だ。覚悟を決めると、肚(はら)が座ってきた。       
 あの日、俺はまだ中学生だった。灼(や)けつくような性欲に身を焦がし、怒りと憎し
みと、そして……。                               
 二人はどこにも出口のない地獄の中で、業火に焼かれた。あのときの二人を支配してい
たものは、どうしようもない絶望。俺は何も出来ない無力なガキだった。ただあの女(ひ
と)を苦しめただけだった。跡に残ったものは、虚無。俺はすべてを諦め、あの男のいい
なりの人生を歩み始めたのだ。だが今は違う。俺は無力なガキじゃない。同じ畜生道に堕
ち、同じ地獄の業火に焼かれながら、俺は生きる気力に満ちている。         
 縄の束をほどくと、腰のところで重ね合わせた両手首に縄をかける。乳房の上下に縄を
まわし、脇に留め縄をほどこすと、ぎゅっと引き絞った。「うっぅん」瑞希が小さくうめ
いた。                                     
「おじさま、こわいわ」                             
 瑞希の肩が小刻みに震えている。その肩をつかみ、こちらを向かせる。       
「きれいだよ、瑞希。どの写真の女の人よりきれいだ」               
「いや、見ないで。……恥ずかしい」消え入るような声でつぶやく。         
強く抱きしめ、長い口づけをかわす。折れてしまいそうな震える細い肩、縄に上下を搾り
出された乳房の硬い感触、心臓の鼓動まで伝わってきそうだ。            
 制服の上から乳房を手のひらでそっと包む。「いいんだね?」こくん、と瑞希はうなず
く。                                      
 厚い制服の布地と下着を通しても木の芽が硬く尖りだしているのがわかる。指先でかり
かりと引っ掻くようにすると「ああぁっ、うぅん」と、思いがけないほどの反応がかえっ
てきた。                                    
「感じる?」                                  
「感じる」                                   
「気持ちいい?」                                
「あぁん、気持ち……いい」瑞希の膝から力が抜け、もはや立っていられなくなったよう
にへなへなと畳に腰をおろす。しまった足首と高いふくらはぎに紺のハイソックスがよく
似合う。真っ白な太腿がまぶしい。その足首と膝の上下にも縄をかけ、さらに拘束する。
「おじさま、お願い。あの写真の女の人みたいに、私の口も塞いで。声を挙げたら恥ずか
しい」                                     
 晒しの和手拭で瑞希の唇を割りながら、言わなければならないことを口にした。   
「瑞希、もうこれきりにしよう。こんなことを続けたら離れられなくなる」瑞希は大きな
瞳を見開き、かぶりを振った。                          
 瑞希の上体を抱え挙げ、セーラー服の胸元をくつろげると、縄の間から瑞々しく張った
乳房を露出させた。首に縄を巻き、そこから縦にさらに乳房を張り詰めるように絞り上げ
ていく。乳房全体が赤味を増し、乳首は充血してさらに硬く尖ってくる。その尖りを夢中
になって吸う、もはや逸る心を押えることができない。猿轡ごしに発せられる瑞希のくぐ
もった喘ぎ声が思考回路をパンクさせる。                     
 瑞希を手放すことなんかできるわけがない。目の前に闇の深淵がぽっかりと口を開けて
いる。瑞希と二人なら、それもいいか。                      
 だが、一つの懸念が俺の心に重くのしかかってくる。俺と瑞希はもしかすると……。 
-続く-